鏡を見るたびにため息が出る日々
朝、出勤前のバタバタした時間。
クローゼットを開け、数年前までお気に入りだったジーンズを取り出した。
20代の頃、このジーンズを履いて友人と街を歩いた。
ガラスに映る自分をちらりと見ては、「今日も悪くない」なんて思っていた。
軽やかな足取り、無意識に浮かんでいた笑顔。
でも今は違う。
お腹を引っ込めてボタンを留めようとしても、あと数センチが届かない。
布地が悲鳴を上げるように突っ張って、指先に力を込めるほど現実を突きつけられる。
「また入らない…」
誰に聞かせるでもない声が、静かな部屋に落ちた。
鏡の中には、疲れた顔の自分がいる。
輪郭は丸くなり、頬の影は濃く、表情はどこか沈んでいた。
昔は「似合ってるよ」と自分に言えたのに、今はため息しか出てこない。
食べることで埋めようとした心の隙間
仕事は忙しい。責任は増え、失敗すれば上司の視線が突き刺さる。
帰り道、コンビニの灯りに吸い寄せられるように入っていく。
「今日は疲れたから」
そう言い訳しながら、スイーツや揚げ物をかごに入れる。
家に帰り、ソファに沈み込み、テレビの音をBGMにスイーツを頬張る。
その瞬間だけは、ふわりと救われる。
でも食べ終わった後に残るのは、空になった容器と重たい自己嫌悪。
「どうしてまた食べちゃったんだろう」
そう呟く声が、暗い部屋に溶けていく。
ネットで運動を試すけれど…
「このままじゃいけない」
そう思い立って、スマホで“ダイエット”を検索した。
画面いっぱいに並ぶのは、引き締まった体のモデルや笑顔のインストラクターたち。
「これなら私もできるかもしれない」と思い、動画を再生した。
マットを敷き、呼吸を整え、インストラクターに合わせて動く。
でも体は言うことを聞かない。
スクワットで膝が痛み、腹筋をすれば腰に重みが走る。
「私、こんなに動けなかったっけ?」
自分の体に裏切られたような気がして、やがて動画を開くことすら嫌になった。
3日後にはマットを畳み、動画の再生リストは封印した。
画面に並ぶサムネイルを見ただけで、「どうせ続かない」という声が心の奥から聞こえてきた。
比較で深まる劣等感
そんなある日、同僚とランチをしていたときのこと。
彼女はサラダをつつきながら笑顔で言った。
「最近ジムに通い始めたんだ。体が軽くなってきてさ、朝起きるのもラクなの!」
私は曖昧に笑いながら答える。
「すごいね、私なんて全然続かなくて…」
その瞬間、胸の奥に冷たいものが流れ込んだ。
「同じ30代なのに、なんで私はこうなんだろう」
劣等感が心を覆い、箸が止まった。
健康診断で突きつけられた現実
さらに追い打ちをかけたのが健康診断だった。
渡された結果表には「生活習慣病予備軍」の文字。
医師は冷静に告げる。
「このままでは将来、確実に不調が出ますよ。運動を始めなさい」
その言葉は宣告のように響いた。
かつて「健康優良児」と言われていた私が、今は真逆の位置にいる。
椅子に座ったまま、手が震えていた。
出会ったのは“私に合わせてくれる場所”
「何をしても続かない。昔の私には戻れない」
そう思いかけていたある日、SNSで流れてきた広告が目に止まった。
「初心者・運動が苦手な方も安心」
「医師と連携し、生活習慣病予防をサポート」
それが【スポーツクラブFLEX】だった。
半信半疑で見学に行った。
エレベーターのドアが開いた瞬間、目に入ったのはフロントと観葉植物の緑。
思っていた“ギラギラしたジム”ではなく、落ち着いた空間。
スタッフが笑顔で近づき、優しい声で話しかけてくれた。
「初めてでも大丈夫ですよ。できることから一緒に始めましょう」
その言葉に、張り詰めていた気持ちが少し和らいだ。
「ここなら、私でも受け入れてもらえるかもしれない」
そんな希望が、心の奥に灯った。
挫折しそうになったときの支え
入会して最初の1か月。
体型はすぐには変わらず、鏡に映る自分は相変わらずだった。
「やっぱり私だけ変われない」
そう呟き、ロッカー室の鏡から目を逸らした。
でもスタッフが声をかけてくれた。
「昨日より元気なら、それが成果です。焦らなくて大丈夫」
更衣室で隣にいた年上の女性も笑って言った。
「私も最初は全然変わらなかったけど、3か月くらいで体が軽くなるわよ」
その言葉に救われた。
完璧を求めすぎて、何度も失敗してきた私。
でも今は違う。
“ゼロにしないこと”を目標にして、少しでも動けたらOKにした。
忙しい日はストレッチとお風呂だけ。
それでも「今日は来ただけで十分」と思えるようになったとき、ジムは義務ではなく安心できる居場所に変わっていた。
数字より大きな変化に気づいた日
3か月後の朝。
洗面所の鏡に映る自分を見て、思わず足が止まった。
二の腕は少し締まり、フェイスラインも前よりすっきりしている。
「あれ…?」
小さな声が漏れた。
恐る恐る、クローゼットの奥から昔のパンツを取り出す。
20代の頃、旅行やデートで何度も履いたお気に入り。
「どうせ入らない」
そう思いながら足を通すと、今日はするりと上まで上がった。
ボタンを留めた瞬間、胸の奥が熱くなり、涙が溢れた。
「着られた…!」
数字以上に、自分の心が変わっていた。
「今日の私、悪くない」
そう思える瞬間が訪れたのだ。
久しぶりに友人に会ったとき、彼女が驚いたように言った。
「なんか雰囲気変わったね。前より明るく見える」
その言葉に、照れくさく笑ったけれど、心の中では「やっと戻れた」と静かに喜んでいた。
私が手に入れた“新しい自分”
ストレス太りで失ったのは、体型だけではなかった。
自信も、笑顔も、未来への期待も。
けれど今は違う。
運動を習慣にできたことで、心も体も前を向いている。
20代の「できる私」から、30代で「できない私」へ。
でも今は「少しずつできる私」へと変わりつつある。
未来はまだ変えられる。
そう信じられるようになったことこそ、私が手に入れた一番大きな宝物だった。
こちらは会員様から頂いた”健康診断にまつわるリアルなストーリー”を元に弊社専属ライターが読み物として楽しめるよう、ショートストーリーとして執筆しています。










